熊本大学大学院生命科学研究部 呼吸器内科学分野

熊本大学医学部付属病院 呼吸器内科学分野

留学体験記

国立がん研究センター東病院 呼吸器内科 猿渡功一

 がんセンター東病院呼吸器内科では肺癌を中心に、縦隔腫瘍、胸膜腫瘍を含めた呼吸器腫瘍の診断から治療および終末期に至る一連の診療に加えて臨床試験、治験やトランスレーショナルリサーチまで関わることができます。
 日常臨床としては胸部X線やCTの読影、気管支鏡(EBUS-GS、EBUS-TBNA、ナビゲーションなど)やCTガイド下生検などの検査、化学療法、緩和治療など診断から治療までを幅広く行っております。
 また、多くの臨床試験や治験を行っているため、臨床試験の方法論や新規の分子標的治療薬などを学ぶことができます。機会があれば現在の標準治療および、これからどのような治療戦略が必要であるかを考え、新しい臨床試験を実際に自分で計画し、実行することも可能です。さらに、臨床試験や治験を介してglobalな最新の肺癌診療を体験することで、世界へのチャレンジ精神が湧いてきます。他科との連携もよく、他癌腫を多くの診療科で研修することにより、腫瘍内科医としての広い知識を身に着けることも可能です。基礎研究としては病理部門や臨床開発センターでの研修が可能であり、特に病理部門においては研究テーマがそれぞれ与えられ、論文を書くことができます。
 臨床研究においては1992年以降の肺癌症例がデータベース化されており、実地診療での臨床的疑問に関して後方視的検討が行いやすい環境にあります。本年度はこの呼吸器科のデータベースを利用してマイナーなテーマでありますが、「Clinical outcomes of patients with recurrent small cell lung cancer receiving third-line chemotherapy」という演題名で、がん医療の分野では世界的に注目される米国癌治療学会議(ASCO 2014)においてポスター発表させていただきました。

 近年、肺癌領域ではEGFR遺伝子変異やALK融合遺伝子などのDriver mutationの発見により、これらの遺伝子を標的とした分子標的治療薬の開発が加速的に進んでおり、
探索的な基礎研究の成果を臨床に橋渡しするトランスレーショナルリサーチの必要性が重要視されてきています。
 今後は肺癌の病理や臨床開発センターでのトランスレーショナルリサーチを中心に研修を行うことで、肺癌診療における知識を高めていきたいと考えております。

慶應義塾大学大学院先端医科学講座 佐藤亮

 私は慶應義塾大学医学部の佐谷秀行先生の研究室へ国内留学させて頂いております。佐谷先生の研究室には、多くの研究者が在籍しており脳腫瘍を始めとして乳癌や胃癌、骨肉腫、リンパ腫など、研究している癌種は多岐に渡りますが、私は肺癌をテーマに研究を行っています。
 私は呼吸器内科に入局し、大学の関連病院で呼吸器内科全般の研修を行わせて頂いた後、元々癌に興味があったということから、大学病院に戻ってからは肺がん診療を中心に携わることとなりました。近年のEBMの流れに乗って、肺がん診療においてもEvidenced basedなガイドラインが作製され、そこには現時点で最も有効と考えられる治療法が書かれています。しかし、現実には進行肺がんを根治することは不可能であり、ガイドラインに準拠した治療法を行っても数か月の延命効果を発揮するのがやっとという状況であります。
 このような現状の中、自分はどのような気概をもってがん診療と関わっていけばいいのか考えるようになったわけですが、幸いにもASCO(American Society of Clinical Oncology)のannual meetingに連れて行っていただき、世界で活躍する臨床家たちが何を考え、実際にどんなことをしているのかを垣間見ることができました。そこでは臨床試験の結果が次々と発表されていくわけですが、どの内容においても分子生物学をbackgroundとしたものばかりで、新しい治療戦略を考えるにあたって分子生物学の理解が必須であることを痛感させられたわけです。

 幸いにも興梠教授のご厚意で国内留学をさせて頂くことができ、癌の基礎研究をactiveに行っている佐谷研究室で研究できることとなりました。現在は肺腺癌の組織不均一性をテーマに研究を行っています。肺がんの中で最も頻度の高い組織型が腺癌になるわけですが、肺腺癌にはその病理像の形態学的特徴によって主要な組織亜型(Lepidic pattern、Papillary pattern、Acinar pattern、Solid with mucin production pattern)が存在します。

 他の多くの固形癌においても複数の組織亜型が存在するわけですが、肺腺癌は同一の腫瘍の中にこれらの組織亜型のいずれか一つが単独で存在するのではなく、複数の組織亜型が混在して存在するのを常態としております。つまり、肺腺癌は同一腫瘍内における組織亜型の不均一性が非常に強い癌であるという特徴を有しています。近年、このような不均一性が治療抵抗性や再発等に関与しているのではないかと考えられてきているわけですが、腫瘍内における癌組織型の不均一性がどのようなメカニズムによって起こるかは詳しくわかっていません。
 このメカニズムを解明することで新たな治療戦略の開発につながるのではないかと、研究を行っています。
 熊本大学呼吸器内科出身の先輩方には、各方面で御活躍されている先生方が多く、国内留学を考える上で非常に心強く感じました。残された貴重な研究期間を楽しく精一杯頑張って過ごしたいと思います。

筑波大学大学院診断病理学講座 猪山慎治

 呼吸器内科入局6年後に臨床を離れて、研究をやる為に思い切って筑波に来ました。研究室は診断病理研究室で小型肺腺癌の病理分類(TypeA~F)である野口分類を作った野口雅之先生に惹かれてやってきました。野口雅之先生は、学会・研究室問わず、いつもジーパン姿でおしゃれで気さくな面白い先生です。
 与えられた研究テーマは、胎児性抗原を利用した新しい分子標的マーカーを探索することです。背景として、種々の癌バイオマーカーが癌の診断に応用され、近年では診断のみならず、分子標的治療の標的となる分子も出現してきています。癌バイオマーカーの中でもcarcinoembryonicantigen(CEA)やα-fetoprotein(AFP)などの胎児性蛋白は、古くから腫瘍マーカーとして免疫組織学的診断や血清学的診断に用いられています。一方、近年ヒトとの遺伝子、m-RNA、発現蛋白の相同性の高いブタが種々の研究に利用されています。そこで我々は、悪性腫瘍が特異的に発現している胎児性抗原を網羅的に探索するためにブタ胎仔を免疫源としてモノクローナル抗体を作製し、ヒトの癌に特異的に発現している分子を探索することにしました。方法としては、研究用として利用されているミニブタ胎仔肺から蛋白抽出を行い、その蛋白を免疫源としてマウスモノクローナル抗体を作製し、ヒト肺癌組織アレイでスクリーニングをかけ、癌に特異的に発現している抗体を拾い、ターゲット蛋白同定をし、解析を行うことです。

 一旦臨床は離れるということは不安でしたが、逆に離れることで見えてくる部分は大いにありました。ただ単にオーダーしていた検査項目がどのように出来たかとか、治療薬はどのように作られたのかとか、基礎研究をしているうちに臨床との共通点が見えてきて面白いです。例えば、間質性肺炎マーカーであるKL-6は肺癌cell lineを免疫源として作製されたモノクローナル抗体によって発見されていたのです。基礎医学を学び、研究に携わることは実地臨床では、決して必要な事ではないですが、将来の医療発展の為には、必要な事です。研究者は、どう役立つかを分からないまま、探究心のみで研究している印象もあります。臨床を経験している医師だからこそ、今後必要とされる検査・治療の発見に貢献出来るのではないかと思っています。

これからも1日1日を大切に研究を頑張りたいと思います。以下、診断病理研究室の心得になります。

~診断病理研究室の心得~

  1. 1に研究、2に研究、研究室に集まる努力から始めよう。
  2. 気力、体力、思考力の限界を作らない(へばったらがんばれ)。
  3. 実験はすべて自分の決心で行う(やらされていると思うな)。
  4. 困難があればそれに立ち向かおうという心の持ち方を習慣づける。
  5. どんなことでも極端にやらなければ身につかない。
  6. 楽しんで実験ができる環境づくりに努力する
    (個人の幸せは組織の幸せ、組織の幸せは個人の幸せ)。
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